Ⅰ2④相続分の譲渡

相続の基礎知識 相続の基礎知識

 遺産分割協議に参加する相続人は相続放棄や相続欠格、相続人の排除によって法定相続人全員が参加しないことがあります。さらに、自らの相続分を他の共同相続人や第三者に譲渡することができ、これによっても参加する者や相続分が変動します。ここでは相続分の譲渡のご説明をします。

民法905条(相続分の取戻権)
1.共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
2.前項の権利は、1箇月以内に行使しなければならない

相続分の譲渡

 遺産分割前までは自分の相続分を共同相続人や第三者への譲渡が認められていて、全ての相続分を譲渡した相続人は相続人の地位を失います。共同相続人へ譲渡すると、譲り受けた相続人の相続分はその分増えることになります。また、相続人がその相続分を第三者に譲渡したときは、当該第三者は当該相続人が有していた相続分(プラスの財産とマイナスの財産を含めた包括的な相続財産全体に対する持分あるいは法律的な地位)を取得するとされています。そのため、相続分の譲渡により相続人の法律的な地位を取得した第三者は、相続財産の管理はもちろん遺産分割協議にも参加することとなります。

こんなときに使う
●遺産分割協議に参加したくない(面識のない親戚、揉めているなど)
●今すぐ現金化したい(遺産分割協議がまとまらないのでいつ分割できるか分からないなど)
●相続人の人数が多く少人数にしたい

※複数の譲受人に相続分を譲渡することもでき、一部のみ譲渡して、残りは自分の相続分としておくことも可能です。一部とは個別の財産の一部(この不動産、この銀行の預金など)という意味ではなく、譲渡人の包括的持分の一部(割合)を譲渡することです。
※譲渡は有償でも無償でも構いません。無償譲渡は譲渡人の死亡時の相続で特別受益とされる可能性があります。
※他の相続人の同意は不要です。
※譲渡人と譲受人に税金がかかることがありますので事前の確認が必要です。
※全ての相続分を譲渡しても債務者の承認を得ていない譲渡は相続債務は免除されません。

相続分の放棄と相続分の譲渡の違い

 遺産分割協議で「相続分はいらない」と相続分の放棄をすれば同じような効果は得られますが、相続争いで遺産分割の協議が進まないときや協議から離脱したいという場合、相続分の放棄をする相続人が多いときには相続分の譲渡が有効です。

相続放棄と相続分の譲渡の違い

相続放棄にはない相続分の譲渡のメリット
●相続分を特定の人に譲渡できる
●後順位の相続人が相続権を取得しない(相続放棄では次順位の相続人に相続権が移る可能性もある)
●一部の相続分のみ譲渡できる(個別の財産ではなく包括的な相続財産の割合)
●相続開始を知ったあと3ケ月を過ぎても譲渡できる
●裁判所の手続がいらない

相続放棄について詳しくはこちらをご覧ください。

相続分の譲渡をする方法

必要書類
 譲渡は譲渡人と譲受人との合意によって行います。口約束でも有効ですが、トラブル防止のために「相続分譲渡証明書」を作成します。また、その後の遺産分割協議のために、相続分を譲渡した旨を他の相続人に通知します。

期限
相続分の譲渡は、遺産分割協議や遺産分割調停などによって、遺産分割の割合が決定するまでに行わなければなりません。

第三者へ相続分の譲渡を行うときの注意点

相続分の取戻権を行使されると当然に相続分を喪失する

 第三者に相続分の譲渡が行われた場合、他の相続人はその価格及び費用を償還して、譲渡された相続分を取り戻すことができます(共同相続人への譲渡は取消権行使できません)。取戻権は譲渡から1ヶ月以内に譲受人への意思表示で行い、譲受人の承諾は必要ありません。なお、行使期限の始期の明文規定はありませんが、譲渡の時が多数派となっており、前述の譲渡の通知を受けたときとする見解は少数派のようです。

不動産の登記手続きが2段階となる

 第三者に相続分の譲渡を行い、遺産分割で第三者が不動産の持分を取得することになった場合、一旦譲渡人名義で相続登記をした後に、譲受人に持分移転登記をする必要があります。共同相続人へ譲渡した場合は相続登記のみとなります。このときに前述の「相続分譲渡証明書」が必要となります。

相続分の譲渡にかかる税金

譲渡人にかかる税金

譲受人無償の場合有償の場合
共同相続人   全て譲渡したら課税なし譲渡で得た金額に相続税が課税             
第三者譲受人が相続した分だけ相続税が課税
(事務上は一旦譲渡人が相続して、それを第三者に譲渡したと考える)
・無償と同様に相続税が課税
・譲渡対価について各種控除後の利益に対し譲渡所得税が課税

譲受人にかかる税金

譲受人無償の場合有償の場合
共同相続人   譲渡を受けた分も含めて相続税が課税
※贈与税はかからない
無償と同様に相続税が課税
(譲渡で支払った金額は控除できる)
第三者贈与税が課税              譲渡価格が適正な金額であれば贈与税は課税されないが、財産の価値より著しく安価であった場合は、贈与税がかかる可能性がある。

~本記事をご覧いただくにあたっての注意事項~
  • 執筆日以降の法改正等により記載内容に誤りが生じる場合があります。当事務所は、本記事の内容の正確性についていかなる保証もしません。万一、本記事のご利用により損害が発生した場合においても、当事務所は一切の責任を負いません。
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  • 本記事は一般的な制度のご説明です。閲覧者様の状況により最適解は異なります。税金や争いに関する疑問は必ず税理士や弁護士に個別の相談をしてください。
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