Ⅰ2②相続の承認、相続放棄、放棄後の不動産管理

相続の基礎知識 相続の基礎知識

 被相続人の死亡により、相続人の意思とは関係なく相続は当然に開始され、相続人はプラスの財産とマイナスの財産を承継するのが原則です。しかし、マイナスの財産の方が多い場合や知らない伯父叔母の相続で負債が調べられない場合などには、相続人が相続財産を承継するか否かを選択するできる限定承認と相続放棄の制度があります。

単純承認と限定承認

種類内容
単純承認何もしなければ単純承認になり、プラスの財産も借金もすべて無条件で承継する
限定承認相続財産の範囲で債務を弁済し、なお残りの財産があればそれを承継する
相続人の2つの承認方法

 限定承認は相続人全員で行わなければならず、家庭裁判所の手続が大変なため、一般家庭の相続ではほとんど利用されていないようです。ここでは詳しい説明は省略します。

相続放棄

 相続人が被相続人の預貯金などのプラスの財産や借金などのマイナスの財産を一切受け継がないようにする家庭裁判所の手続です。相続放棄をすると相続人では無くなり、放棄した子供にも代襲相続することはありません。
 被相続人の最終住所地を管轄する家庭裁判所に、各相続人が単独で申請(申述といいます)します。申述は自己のために相続の開始があったことを知った時から3ケ月以内にしなければなりません。
 なお、民法では「相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは相続放棄できないと定められています。しかし、借金があることを知らずに未納の電気代を払った後に多額の借金が判明し相続放棄したいという場合などはあまりにも酷です。裁判の判例では「3カ月以内に限定承認または相続放棄をしなかったのが、相続財産がまったく存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の期間は、相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識したとき、または通常これを認識することができるときから起算するた(最高裁昭和59年4月27日判決」としました。ただし、相続放棄できるかどうかは裁判所の判断になりますので、この事例に該当する方はできる可能性があるということで専門家に相談してください。また借金があることを知っていたのに財産を処分(現金を使ってしまったり、一部の債権者に弁済したり)した場合は単純承認したものとみなされますので、相続放棄を検討する方はご注意ください。

相続放棄の申述は難しい手続きではないためご自分で行う方も多いですが、心配なようであれば専門家に相談して進めてください。

手続きに必要な書類などは家庭裁判所の相続放棄のホームページをご覧ください。

※被相続人の債務の連帯保証人となっている相続人は、連帯保証債務はご自身の債務ですので被相続人の相続放棄をしても無くなることはありません。アパートローンでは法定相続人の連帯保証を求められていることが多く、団体信用生命保険に加入していなかった場合は注意してください。

相続放棄後の不動産の管理

 相続放棄の唯一の問題点は、相続放棄しても不動産の管理義務が残ってしまう場合があることでした。しかし2023年4月1日施行の民法改正により、相続放棄しても「現に占有」していない相続人は管理義務を負うことがなくなりました。「現に占有」とは被相続人と一緒に住んでいたとか利用していた場合です。長らく別居していた、疎遠の叔父さんの相続人の管理責任が無くなったことは朗報です。
 現に占有していた相続人は、相続放棄によって新たに相続人になった次順位の相続人に対し、相続人又は相続財産清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、保存義務(改正前の管理義務とほぼ同意)が残ります。あくまで次順位の相続人に対する義務ですが、土地工作物の占有者の責任(民法717条)による損害賠償責任を負う可能性もありそうですので注意が必要です。

第940条(相続の放棄をした者による管理)
 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

相続放棄後の不動産管理の民法上の手続き

 相続人全員が相続放棄して管理する人が居なくなった家はいったいどうなってしまうのでしょうか。この問題も民法改正で整理されました。

所有者不明土地(建物)管理制度(264条の2~264条の8)
 所有者が死亡して戸籍などで調査しても相続人が不明な場合や、相続人全員が相続放棄をした場合で適正な管理がされていない場合には、利害関係人の申立てにより裁判所は土地(建物)管理人を選任して、この土地(建物)管理人に管理を命ずることがでます。なお、この制度は分譲マンションの専有部分や共用部分には適用されません。

所有者不明土地(建物)管理制度(897条の2)
 相続人は判明しているが遺産分割されていない相続財産や相続人が明らかでない相続財産において、管理が不適当で他人の権利や法律上の利益が侵害されている場合などは、相続財産の清算を目的としない相続財産管理人の選任が可能となりました。家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができます。
 所有者不明土地(建物)管理制度と同じような内容ですが、相続人が判明している場合で管理を行わない場合や不動産以外の財産も対象となります。
 相続人全員が相続放棄した不動産は、最終的には清算しなければならないと言えますので、相続財産管理人は、下記の清算を目的とする相続財産清算人の申立てが別途できる仕組みとなっています。

相続財産の清算制度(改正)(952条)
 相続人が明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任をします。この制度は財産の清算を目的とすることから予納金(清算人に払う報酬等)が必要になります。

 

 相続人全員が相続放棄した不動産はこれから増えそうです。各制度に利害関係人という言葉がでてきますが、国や地方公共団体も含まれるようですので最後は行政の出番でしょうか。売れる不動産なら何とかなりそうですが、地方では負動産も増えています。行政の負担が増えることだけは間違いないようです。

第951条 (相続財産法人の成立)
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
「相続人のあることが明らかでないとき」には、法定相続人がいない場合、法定相続人全員が相続欠格・廃除・相続放棄によって相続資格を喪失している場合を含み、法律上当然に相続財産法人が成立します

相続放棄と生命保険

原則、受け取る生命保険金は相続人の財産となりすので、遺産分割の対象ではありません。そのため相続放棄をしても保険金は受け取れます。
なお、保険契約の内容や約款によって相続財産となる場合もあります。詳しくはこちらをご覧ください。

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