Ⅰ1④遺産分割と遺産分割の対象となる財産

相続の基礎知識 相続の基礎知識

 相続の基本原則は所有者のいない財産を作らないということにあります。そのため、一部例外はあるものの死亡と同時に直ちに故人の配偶者や子供、親、兄弟などの相続人に相続財産が帰属するという構成となっています。

遺産分割とは 

 故人の財産は相続人が引き継ぐことになりますが、遺言書が無い場合には、原則として相続人全員が共有することになります(民法898条)。共有のままでもいいのですが、管理や処分が面倒ですし、共有者が死亡すると更に共有者が増えるなどトラブルの原因となります。
 遺産分割とは、相続開始により共有状態となっていた権利関係を、単独所有にするために相続人全員で話し合い、各相続人における具体的な財産の取得分を決める作業です(民法907条1項)。
 遺産分割協議の方式は決まりはありませんが、合意内容を明確にし、後日の紛争を避けるために、合意内容を書面にして署名と実印で捺印を行うことが通常です。これを遺産分割協議書といいます。法定相続分とは異なる形で相続税の申告をする場合や、不動産の相続登記申請をする際に必要となります。

遺産分割の家族の会議の進め方はこちらをご覧ください。

遺産分割の期限

 遺産分割をいつまでに行わなければいけないという規定はありません。ただし、下記のとおり期限に注意する法律改正がありました。

不動産の相続登記

 令和6年4月1日施行の不動産登記法改正により、不動産の登記名義人が亡くなったときは、相続により当該不動産を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をしなければならないことになりました(10万円以下の過料の可能性もあります)。相続登記を行うためには遺産分割協議書が必要なため、実質的に遺産分割の期限となっています。

相続開始から10年経過した遺産分割(寄与分や特別受益のタイムリミット)

 民法改正により(令和5年4月1日施行)、相続開始時から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として寄与分や特別受益の主張ができなくなりました(民法904条の3)。なお、この規定は施行日(令和5年4月1日)前に相続が開始した遺産分割にも適用されます(経過措置で少なくとも施行の時から5年の猶予期間あり)。寄与分や特別受益を主張したい相続人はタイムリミットとなりますので注意が必要です。

 寄与分についてはこちらをご覧ください。
 
特別受益についてはこちらをご覧ください。

遺産分割の効力 いつから相続財産を所有することになるのか

 相続人全員の共有となっていた相続財産は、遺産分割が確定することにより各相続人の所有となります。それではいつから相続財産を所有する(していた)ことになるのでしょうか。
 民法では、遺産分割の効力は相続開始に遡って発生すると定めています。相続登記された不動産の登記簿を見ると、登記の原因となった日付も遺産分割協議書の日付ではなく相続が開始された日(所有者が亡くなった日)が記載されています。
 しかし、注意がいるのは賃貸アパートなど貸し付けている不動産の賃料収入です。賃貸不動産の所有権は遡って効力を有しますが、相続発生後から遺産分割協議成立までの賃料は各共同相続人に法定相続分で帰属します(判例)。詳しくは「相続開始後の賃料収入は誰のもの?」をご覧ください。

遺産分割の対象となる財産

 平成28年12月に遺産分割に関する正反対の判決がありました。それまでは銀行の預貯金は、遺産分割の協議を経なくても、相続開始とともに法定相続分に応じて当然に分割して取得されるものとしていたところ(各相続人が自分の相続分の金額は単独で払戻しができた)、最高裁判所は遺産分割の対象であるとの真逆の判断を示しました。これにより金融機関では、遺言書や調停の場合を除き、有効な遺産分割協議書または金融機関指定の相続届出書を提出しないと相続預貯金(普通預金、定期預金、通常貯金、定期貯金等)の払戻しを行わなくなりました。
 多くの家庭の相続財産は不動産と預貯金や株式などの金融財産ではないでしょうか。これらは全て遺産分割を経ないと共有から脱することができない財産となります。

相続人に未成年者や認知症などにより判断能力が低下している人がいる場合の遺産分割協議

未成年者の場合は法定代理人である親権者(父母等)が未成年者に代わって遺産分割協議に参加することになります。ただし、親権者自身が未成年者とともに共同相続人である場合は、家庭裁判所に特別代理人を請求し、選任された特別代理人が未成年者の代理人として遺産分割協議を行います。
 父親が亡くなった時に母親が認知症だったということはよくあることです。認知症により判断能力が無い状況ではご本人は遺産分割協議に参加することができません。その場合は家庭裁判所に成年後見人を申し立てて、選任された成年後見人が遺産分割協議に参加します。

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  • 執筆日以降の法改正等により記載内容に誤りが生じる場合があります。当事務所は、本記事の内容の正確性についていかなる保証もしません。万一、本記事のご利用により損害が発生した場合においても、当事務所は一切の責任を負いません。
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