遺言で財産を全くもらえなかった場合でも、被相続人の妻子などの一定の相続人については、遺産の一部を受け取る権利が定められています。これを遺留分といいます。遺留分が侵害された場合は、遺留分侵害額請求をします。また遺留分は被相続人によって排除することはできませんが、相続人が放棄することはできます。ここでは遺留分のご説明をします。
遺留分の割合と権利者
相続人の状況により下記の通り相続人全員の遺留分があります。そして遺留分を各相続人の法定層相続分で割り当てます。
条件 | 遺留分 |
---|---|
直系尊属のみが相続人である場合(父母のみなど) | 相続人全員で1/3 |
上記以外の者が相続人である場合 (配偶者のみ、子のみ、配偶者と子、配偶者と親など) | 相続人全員で1/2 |
1.兄弟姉妹には遺留分はありません。
2.兄弟姉妹以外の相続人の代襲相続人も遺留分権利者です。
3.相続欠格や排除、放棄によって相続する権利を喪失した者は、遺留分の権利者ではありません。
4.相続欠格および排除による代襲相続人は遺留分がありますが、放棄の場合は代襲相続しませんので、遺留分も認められません。
遺留分を計算する時の注意
1.遺留分の計算に加算する(持ち戻す)財産
遺留分の計算に加算する(持ち戻す)財産は下記となります。なお、遺産分割時は持ち戻しができない被相続人による遺産分割の持ち戻し免除の意思表示と婚姻期間20年以上の配偶者間の居住用不動産の遺贈・贈与は遺留分計算時には持ち戻しすることができます。
①法定相続人が相続開始前10年以内に受領した特別受益(相続時の評価、相続放棄者のものは除く)
②1年以内に生前贈与した財産(誰でも)
2.除外合意された株式の除外
事業後継者が取得した株式を遺留分に算定する財産に算入しない合意をされた株式は、遺留分の算定計算から除外されます。
3.固定合意された株式の評価
事業後継者が取得した株の価値を合意時の時価に固定する合意(経済産業省大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要)した株式は、相続時ではなく贈与時の評価で計算します。
4.生命保険金
原則として生命保険金は遺留分の対象になりません。しかし、遺産に対して生命保険金が多額であり、著しい不公平が生じる場合は遺留分に算定する財産に算入すべきと判断される可能性もあります。
遺留分侵害額請求権
遺留分未満しか遺言書に書かれていなかった場合(「遺留分を侵害された」といいます)は、「遺留分侵害額請求権」を行使して財産を多く貰った人に対し侵害された分に対し「金銭」を請求することができます。なお、侵害額請求権は、相続の開始および侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年以内に請求しないと時効により権利が消滅します。また相続開始時から10年行使しないと遺留分侵害や相続開始を知らなくても時効によって消滅します。
- 1遺留分を侵害している人との話し合い
内容証明郵便で遺留分を請求する意思表示をして時効による消滅を防ぎます。その後直接話し合いをします。
- 2家庭裁判所での調停
話し合いで解決しないとき又は相手が話し合いに応じない時は、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。調停を経ないで直接訴訟を起こすことはできません。
詳しくは裁判所のHP「遺留分侵害額の請求調停」をご覧ください - 3訴訟の提起
調停でも合意ができなかった場合は、遺留分を侵害している人を相手取って裁判所に訴えを起こすことになります。
遺留分の放棄
相続開始前に家庭裁判所で遺留分放棄の許可を申し立てることとで遺留分は放棄することができます。この制度を利用する例として、大規模農家や中小企業の経営者で、財産のほとんどが事業に関するもので、後継者の相続人だけに相続させないと事業承継できないケースです。
詳しくはこちらの「遺留分の放棄の許可の裁判所HP」をご覧ください
相続開始後、遺言により財産を相続できない場合で財産は要らないという場合は、遺留分を請求しなければ時効となりますので(放棄と同じことになる)、特別な手続きは必要ありません。