所有者不明私道への対応ガイドラインとライフライン設備設置・使用権

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 共有制度の見直しと隣地でのライフラインの設備設置・使用権に関するルールの整備に関する民法改正に関連して、法務省民事局のホームページで「所有者不明私道への対応ガイドライン(第2版)が令和4年6月に掲載されました。私道所有者が不明のとき、私道へ水道・下水・ガスなどのインフラ設備工事をするときにどのような取り扱いをすればいいかというガイドラインで、私道の工事に関する支障事例における具体的な適用関係を示しています。行政・司法・ライフライン事業等の関係者に広く参照されることを期待して作成されました。
 所有者不明の私道へのガイドラインとありますが、そもそも私道では誰の承諾が必要なのかの記載もあり、私道に接する宅地をお持ちの方は必見の内容となっています。ここではガイドラインの中から関心が高いと思われる代表的な事例を抜粋しました。

私道の権利形態による種類分け

 私道の所有権の持ち方として分筆型と共有型があります。法務局で下記のような公図を取得するとどちらの型か分かります。分筆型私道は土地を細かく分けてそれぞれの土地を単独で持ち合っています。共有型は道路部分の土地は1つで、皆で共有しています。

私道の権利形態

私道のインフラ工事に関する具体的な適用

公道の公設水道管まで単独で私道に私設菅を埋設工事する場合

【共有型私道】
①共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができるため(改正前民法第 249 条、改正民法第 249 条第1項)、共同所有型私道について共有持分を有する共有者は、それぞれ、その持分に応じて私道を使用することができる。
②私道共有者は 、その持分に応じて私道を全部使用することができることから、 掘削工事を行うことについて、他の共有者の同意を得る必要はない。

【分筆型私道】
①私道下に給水管が設置されている場合、私道を構成する土地の提供者は、相互に、地上の通行だけではなく、通路の地下に、公道に設置されている配水管に接続するための給水管を設置することを明示又は黙示に承諾していたものと考えられ、他の所有者の細切れ私道部分に給水管を設置することができると考えられる。
②改正前民法の下でも、他の土地を経由しなければ、水道事業者の設置した配水管から宅地に給水を受けることができないいわゆる導管袋地については、他の土地に囲まれて公道に通じない土地(袋地)の所有者の通行権(囲繞地通行権)に関する民法第 210 条から第 213 条までの類推適用により、他人の土地の使用が認められる場合もある。
③改正民法においては、土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ水道水の供給等の継続的給付を受けることができないときは、他の土地等の所有者に対する通知を行った上で、当該継続的給付を受けるために必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができることとされている(改正民法第 213 条の2第1項及び第3項)。
④分筆型私道において、他人の所有する通路敷の下に給水管を設置する以外に宅地に水を引き込む方法がなければ、各所有者の同意を得なくとも、通知を行った上で、給水管を用いた水道の継続的給付を受けるために必要な限度で給水管を各所有者が所有する細切れの土地に設置することができる。この場合、所在等が不明である所有者に対しては、公示による意思表示をもって、通知を行うことになる(民法第 98 条)。

私道に埋設されている私設共用水道管に新規に水道管を接続工事する場合(下水道管も同様)

【共有型私道】
①共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができるため(民法第 249 条、改正民法第 249 条第1項)、共同所有型私道について共有持分を有する共有者は、それぞれ、その持分に応じて私道を使用することができる。
②私道共有者は、その持分に応じて私道を全部使用することができるから、掘削工事を行うことについて、民法上、私道共有者の同意を得る必要はない。
③改正前民法の下でも、民法第 220 条及び第 221 条の類推適用により、私設共有給水管を使用することができるものと考えられる(下記分筆型私道①参照)。
④改正民法の下では、私設共用水道管に接続したい宅地所有者は、私設共用水道管に接続しなければ水道の供給を受けられないときには、私設共用水道管の共有者に通知を行った上で 、当該水道の供給を受けるために必要な範囲内で 、自己の給水管を接続して給水管を使用することができる(改正民法 第 213 条の2第1項 及び第3項 )。

【分筆型私道】
①改正前民法下の判例では、宅地の所有者は、他の土地を経由しなければ、水道事業者の設置した配水管から宅地に給水を受けることができない場合において、他人の給水設備を給水のため使用することが他の方法に比べて合理的であるときは、その使用により当該給水設備に予定される効用を著しく害するなどの特段の事情のない限り、民法第 220 条及び第 221 条の類推適用により、当該給水設備を使用することができるとされている(最判平成 14 年 10 月 15 日民集 56 巻8号 1791 頁 参照)。
そのため、細切れに分筆された土地の所有者の同意がなくても、給水管の設置のために所有者の通路敷を使用することができると考えられる。
②自己の宅地内に水を引き込むための給水管を、他人が共有する給水管に接続するために、他人が所有する隣地を使用せざるを得ない場合には、給水管の設置という生活に不可欠の導管を設置する必要性の観点から、改正前民法の下でも、袋地利用を確保するための相隣関 係の規定である民法第 210 条から 第 213 条の 類推適用により、他人の土地の使用が認められる場合があると考えられる。
③私道下に給水管が設置されている場合、通路敷となる土地の提供者は、相互に、地上の通行だけではなく、通路敷の地下に、公道に設置されている配水管に接続するための給水管を設置することを明示又は黙示に承諾していたものと考えられる。
したがって、このような場合には、新たに給水管を設置する者に対する関係においても、通路敷の地下に給水管の設置を目的とする地役権(民法第 280 条)が明示又は黙示に設定されたと考えられ、地役権に基づき給水管を設置することもできると考えられる。
④改正民法においては、土地の所有者は、他の土地に設備を設置し又は他人が所有する設備を使用しなければ水道水の供給等の継続的給付を受けることができないときは、他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に対する通知を行った上で、当該継続的給付を受けるために必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができることとされた(民法第 213 条の2第1項及び第3項)。
 そのため、引き込み菅工事をする宅地所有者は、工事個所の土地所有者及び私道を現に使用していると評価することができる者に対して通知(所在等不明の所有者に対しては公示による意思表示での通知)を行った上で、設備設置権に基づき、給水管の設置のために土地所有者の通路敷を使用することができる。また、引き込み菅工事をする宅地所有者は、私設共用給水管の所有者の同意がなくとも、これらの者に対して通知を行った上で 、設備使用権に基づき、私設共有給水管に接続して使用することができる。

公設の下水道管まで単独で私道に私設下水道管を埋設工事する場合

【共有型私道】
①共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができるため改正前民法第 249 条、改正民法 第 249 条 第1項 、共同所有型私道について共有持分を有する共有者は 、それぞれ、その持分に応じて私道を使用することができる。そのため、共有者は 、その持分に応じて私道を全部 使用することができるから、掘削工事を行うことについて、民法上、共有者の同意を得る必要はない。

【分筆型私道】
①公共下水道の供用が開始された場合には、原則として、当該公共下水道の排水区域内の土地の所有者は、遅滞なく、その土地の下水を公共下水道に流入させるために必要な排水管、 排水渠その他の排水施設(以下「排水設備」という。)を設置しなければならないとされている(下水道法第10条第1項)。
②下水道法第 10条第1項により排水設備を設置しなければならない者は、他人の土地又は排水設備を使用しなければ下水を公共下水道に流入させることが困難であるときは、他人の土地に排水設備を設置し、又は他人の設置した排水設備を使用することができるとされており(下水道法第11条第1項)、この場合、他人の土地又は排水設備にとって最も損害の少ない場所又は箇所及び方法を選ばなければならない(下水道法第11条第1項)。
③下水道法第11条第1項の規定により他人の土地に排水設備を設置することができる者は、当該排水設備の設置をするためやむを得ない必要があるときは、他人の土地を使用することができ、この場合においては、あらかじめその旨を当該土地の占有者に告げなければならないが(下水道法第11条第3項)、当該土地の所有者の同意を得なくても排水設備を設置することができる。

私道に埋設されている私設単独水道管の補修(下水道管も同様)

共有型私道】
①私道の共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができるため(改正前民法第249条、改正民法第249条第1項、一般に、同所有型私道の下に給水管を設置することができる 。
②そして、当該給水管に損傷が生じた場合には、持分に応じた土地の使用として、設置した給水管の損傷を補修するために必要な工事を行うことができる 。
③よって、共有型私道下に設置した私設単独水道管を利用する土地共有者は、給水管を補修するため、持分に応じた使用として、他の共有者の同意がなくても、工事を行うことができるものと考えられる。

【分筆型私道】
① 分筆型私道は、特段の合意がない場合、それぞれの所有土地部分を要役地とし、互いの所有地部分を他方の通行のための承役地とする地役権(民法第280条)が黙示に設定されていることが多い。また、地役権の内容は、設定行為によるところ、敷地内に建物を建てるのと同時に通路(私道)を開設するとともに、給水管も設置していたような場合には、土地の提供者は、相互に、私道の地下に各土地の所有者の自宅敷地内に水を引き込むための給水管を設置して私道下を利用することを内容とする地役権(民法第 280 条)を明示又は黙示に設定したと考えるのが合理的である。
②私道下の給水管(導管)の設置を目的とする地役権が設定されていると考えられる場合に、 給水管が損傷して漏水し、その利用が阻害されているときには、損傷給水管を利用している土地所有者は、私道下の給水管の利用を確保するために補修工事を実施することができ、細分された各私道所有者 はこれを受忍すべき義務を負うと考えることができる。
③改正前民法の下でも、他の土地を経由しなければ、水道事業者の設置した配水管から宅地に給水を受けることができないいわゆる導管袋地については、他の土地に囲まれて公道に通じる土地(袋地)の所有者の通行権(囲繞地通行権)に関する民法第 210条から第 213 条までの類推適用により、他人の土地の使用が認められる場合もある。
④改正民法においては、土地の所有者は、他の土地に設備を設置しなければ水道水の供給などの継続的給付を受けることができない場合には、通知を行った上で 、当該他の土地に設備を設置することができ、また、当該設置のために当該他の土地を使用することができるとされている(改正民法第 213 条の2第1項、第3項及び第4項)。ここでいう設備の設置は 、設備の新設だけでなく、既設の設備の取替えや補修を含むものと解される。

都市ガスの事業者が管理する管を私道に埋設工事をする場合

【共有型私道
①一般ガス導管事業者が私道の地下に同事業者の所有するガス管を設置する際には、私道の所有者との間で、ガス管を設置するために地下を利用する権利を設定する契約を締結している。その設定される利用権の法的性質は一様ではないようであるが、一般にこのような利用権を設定する場合、数十年にもわたる長期間の利用も可能とされている。
②ガス管を私道の地下に設置した場合には、私道の地下の状態は物理的に変更されるものの、一般的に、私道の機能についての変更は生じないことや、私道共有者自身もガス管を使用することからすると、利用権を設定する契約を締結して私道の地下にガス管を設置する行為は、共有物の管理に関する事項に当たり、共有者の持分の過半数で決する(改正前民法第 252 条本文、改正民法第 252 条第1項) 。

【分筆型私道】下水道と同様のため下水道の事例で記載
①市町村等が私道の地下に公共下水管を設置する際には、一般に、私道の所有者との間で、公共下水管を設置するために地下を利用する権利を設定する契約を締結している。設定される利用権の法的性質は一様ではないようであるが、一般にこのような利用権を設定する際には、契約期間は定まっていないものの、数十年にわたる長期間の利用が予定されている。
②市町村等が私道下に公共下水管を設置する場合、市町村等が公共下水管の改築、修繕、維持その他の管理を行うこととなり(下水道法第3条)、公共下水道を良好な状態に保つように維持し、修繕する等の義務を負い(下水道法第7条の3、同法施行令第5条の12、私道が公共の管理に服することとなる。
③分筆型私道においては、私道の全ての土地の所有者が、それぞれ地方公共団体との間で利用権設定契約を締結することが必要となると考えられる。

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