相続財産は「民法上の相続財産」と「相続税法上の相続財産」があります。似たような言葉ですが違いがありますので注意してください。
民法上の相続財産
民法上の相続財産とは、基本的には被相続人が所有していた財産すべてで、一般的なものとしては故人の預貯金、不動産、株式、自動車、貴金属などがあります。預貯金、不動産、株式、車などは行政や金融機関の相続手続きが必要になります。特殊なものとして損害賠償請求権も相続財産として相続人は相続します。また、債務(借金など)も相続しますので、相続放棄をしない限り相続人は返済を行う義務を負います。
【プラスの財産】 不動産の所有権:戸建の土地建物、自宅マンション、別荘、畑、山林、投資用不動産など 不動産を使用収益する権利:借地権、賃貸借契約 ※県営住宅や市営住宅の使用権は個人の属性(収入など)によって利用できますので当然には相続しません。国土交通省でも平成17年に公営住宅の入居承継の親族要件を「原則として配偶者のみとし、子供への承継は認めない」とする内容の通知を行っています(ただし通知ですので法的根拠にはなりません)。公営住宅を引き続き利用したい方は管理自治体へ相談してください。 現金・有価証券:現金、預貯金、株式、出資金、配当金、小切手など 未収金:被相続人の死亡前の家賃収入で未収のもの 各種請求権:敷金返還請求権、貸付金請求権、損害賠償請求権、慰謝料請求権など 動産:自動車、美術品、骨董品、貴金属、家財など ※家財道具も相続財産ですが、遺産分割協議書に一つ一つ記入していたらキリがありません。価値のあるもの以外は記載しないのが一般的です。そのため「本協議書に記載なき財産の一切」として包括的に記載します。処分費用が発生する場合などは家財道具の一切はどうするかを決めて記載してもいいでしょう。 その他:ゴルフ会員権、電話加入権など 【マイナスの財産】 債務:借金、損害賠償債務、未払家賃、分譲マンションの管理費と修繕積立金など 未払いの税金や社会保険料、滞納中の税金や社会保険料など その他:未払いの電気ガス水道代、医療費や介護費用など
下記の民法上の相続財産かどうか取り扱いが紛らわしいものがありますので別途ご説明しています
●生命保険金についてはこちら(状況によって相続財産になる可能性も)
●賃貸住宅の家賃収入についてはこちら
●死亡退職金についてはこちら
●香典や弔慰金についてはこちら
民法上の遺産分割の対象とならない相続財産
相続財産でも遺産分割の対象とならない財産があります。法律上の定義はありませんが相続財産から遺産分割の対象とならない相続財産を引いたものが遺産と言われています。ここでは遺産分割の対象ではないものの説明をします。
1.そもそも相続財産ではない財産や権利 ①被相続人の一身属性の権利義務 その人のみに帰属する権利義務のことで、公営住宅の使用権、生活保護受給権、年金受給権、養育費の請求権や支払い義務、会社役員の地位、扶養請求権、身元保証人の地位などがあります。 ②生命保険金 死亡保険金は、受け取り指定されている人の財産のため、民法上は原則相続財産に属しません。 ③祭祀財産(仏壇、位牌、お墓) 祭祀財産は、習慣に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継しますので、相続財産ではありません。しかし、近年はお墓の管理の習慣も無くなっており、遺言や遺産分割協議で決まる場合も多くなっています。なお、遺骨の所有権は祭祀を主宰すべき者に帰属しますが(判例)、近年は祭祀財産と同様な決め方を行う場合が増えています。 2.相続財産だが遺産分割の対象とはならない財産や権利 ①相続債務 債務は相続開始と同時に法定相続分に応じて相続人が承継します。遺産分割協議で特定の相続人に債務を負わせる分割をしたとしても、債権者はそれに従う必要はありません。 ②預貯金以外の可分債権 可分債権とは、性質上分割可能な債権のことをいい、金銭債権(貸しているお金)が代表的です。相続開始と同時に当然に法定相続分で分割されるためですが、債務とは違い、相続人全員の合意によって遺産分割の対象にすることは可能です。
相続税申告における相続財産
民法の相続財産に似たような概念で「相続税の計算をする上での相続財産」があります。民法による相続財産に加え下記の財産を加除して相続税を計算します(控除額あり)。
みなし相続財産
みなし相続財産とは、民法上の相続財産には該当しない(民法による遺産分割協議をする必要がありません)が、死亡することによって財産が移転するということで、相続税法上は相続財産とみなされる財産です。相続財産に含めて一定額を相続税の課税対象とします。代表的な「みなし相続財産」は次のようなものがあります。
生命保険金(死亡を原因として支払われるもの)
要件=保険料負担者:被相続人、被保険者:被相続人、受取人:相続人または受遺者
死亡退職金(亡くなった人が生前に勤めていた会社から支払われるもの)
本来被相続人が受け取る退職金を相続人が取得したときに「みなし相続財産」として課税対象となります。
要件=死亡日以後3年以内に支給が確定したもの(3年を超えると相続人の一時所得)
弔慰金(雇用主が勤続年数などの要件に従って定めた功労に対して支給される金銭)
下記の一定額を超えると死亡退職金として扱われ、みなし相続財産となります。
業務上の死亡のとき⇒被相続人の死亡当時の給与×3年分
業務上の死亡ではないとき⇒被相続人の死亡当時の給与×半年分
定期金(個人年金など)
被相続人が個人年金の掛け金を支払っていて、年金の受取人が配偶者や子供になっていた場合は、年金もみなし相続財産です。被相続人が死亡した時点でまだ年金の給付が決定されていない場合でも、相続税が課税されます。
葬儀費用(マイナスの相続財産)
葬儀費用は、相続人が負担するもので相続債務ではありませんが、税務上は下記葬儀費用を相続財産のマイナス財産に含めて計算することができます。
認められるもの:お布施、戒名料、読経料遺体運搬費、火葬・納骨・埋葬費、その他葬儀費用(領収者がでないものはメモを残しておいてください)
認められないもの:初七日や四十九日等の法要料、墓地代、香典返し代
家財一式
家具、電化製品、日用品などの動産も相続税法上の相続財産に含まれ、相続税申告の明細書に記載する必要があります。一つずつ記入することが基本ですが、1個または1組の時価が5万円以下のものは「家財一式」として、一括して一世帯ごとに評価することができます(財産評価基本通達128)。「家財一式10万円」「家財一式30万円」といった形で記載できます。
なお、5万円を超える財産(自家用車、宝飾品、骨とう品、美術品など)は個別に評価して計上します。