Ⅰ1⑤生前贈与を思い出そう(持ち戻し制度)

相続の基礎知識 相続の基礎知識

 相続が発生すると相続財産の調査をする必要があります。相続財産は死亡時に所有していたものだけでなく、生前に贈与した財産も考慮する必要があります。

各種制度の「持ち戻し」のために思い出そう

 相続の手続では下記の3つ場面で、過去の贈与財産を相続財産として計算をします(「持ち戻し」といいます。)。

遺産分割時の持ち戻し(民法)

 遺産分割時の持ち戻しは、被相続人から生前贈与など特別な利益(「特別受益」といいます。)を受けた相続人が居る場合は、特別受益を「相続開始時の価値」で持ち戻すことにより、特別受益者は相続分を減らし、それ以外の相続人の相続分を増やす制度です。相続人が誰も特別受益を主張しない場合は持ち戻しをしないで遺産分割を進めても構いません。
 なお、特別受益の期間の制限はないので大昔の特別受益でも対象となります

 特別受益について詳しくはこちらをご覧ください

特別受益の持ち戻しができる例
 ①事業を始めるための開業資金を贈与した
 ②住宅購入資金を贈与した
 ③医大など高額な教育費や海外留学費
 ④借金の肩代わり
 ⑤扶養の範囲を超える生活費の援助 など

持ち戻しが免除されるケース
次の場合、特別受益は考慮しないで(持ち戻しを免除して)遺産分割を進めます。
①被相続人が持ち戻し免除の意思表示をしたとき
 特別受益について、被相続人が「持ち戻しをしないで欲しい」と遺言書・贈与契約書・その他の書面等で意思表示した場合はする。
②婚姻期間20年以上の配偶者間の居住用不動産の遺贈・贈与(民法903条4項)
 この要件を満たした場合、特別受益の持ち戻し免除の意思表示があったと推定されます。
なお、税法でも同じような要件で、贈与税の2000万円配偶者控除の制度がありますが、民法の遺産分割の持ち戻しの制度は評価額の上限はありません。どんな高額の不動産でも持ち戻し免除ができます。

遺留分計算時の持ち戻し(民法)

 遺留分を計算するときは、下記の特別受益は「相続開始時の価値」で持ち戻しすることができます。つまり、相続財産額を増やして遺留分侵害額を増やすことができます。
 ①法定相続人への相続開始前10年以内の特別受益
 ②相続人以外への相続開始前1年以内の特別受益
 なお、上記の期間内における前述の遺産分割の持ち戻し免除の意思表示と婚姻期間20年以上の配偶者間の居住用不動産の遺贈・贈与は遺留分計算時には持ち戻しすることができます。

 遺留分について詳しくはこちらをご覧ください

相続税の計算時の持ち戻し(相続税法)

相続発生より3年前に贈与された財産(法律改正により7年前に贈与された財産(令和6年1月1日以降の贈与から適用))について相続財産として加算して(持ち戻して)相続税を課税します。
<注意事項>
・暦年課税制度で申告した贈与も対象
・法定相続人以外への贈与は対象外(例外有)
・下記の持ち戻し免除あり

持ち戻し免除
下記の非課税枠に該当する財産であった場合、持ち戻しが免除となります。
・住宅取得資金の贈与税の非課税制度
・夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除制度
・直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税制度
・直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税制度

相続時精算課税制度の申告のために思い出そう

 相続時精算課税制度を利用した贈与の場合、相続時に贈与時の価格で相続財産として相続税を計算します。期間の制限はありませんので、住宅資金援助を受けた人は、援助から数十年後に相続税の申告が発生します。親が税務署の手続きを行うことも多く、資金援助を受けた人は、相続時精算課税制度、相続時精算課税選択の特例、住宅取得資金の非課税制度のどれを利用したのかよく解っていない人も多いのが現実です。

 なお、相続人は、特定の相続人が被相続人から受けた贈与(申告されている相続時精算課税制度の贈与と相続開始前3年以内の贈与)に関し、税務署で贈与申告財産の情報開示請求ができます。

 相続時精算課税に関し詳しくはこちらをご覧くください(未完成)

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  • 執筆日以降の法改正等により記載内容に誤りが生じる場合があります。当事務所は、本記事の内容の正確性についていかなる保証もしません。万一、本記事のご利用により損害が発生した場合においても、当事務所は一切の責任を負いません。
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