賃貸借契約の借主の地位は相続財産ということはこちらでご説明しました。引き続き相続人が利用する場合はプラスの財産と考えられますが、ここでは、借主の地位を承継した相続人が負債を負ってしまう例をご紹介します。
賃料や管理費の請求をされる
借主が負担してた次の賃料や管理費は、相続人が利用する予定がなくても引き続き相続人に支払い義務があります。
①相続開始前に発生していた未払いの家賃や管理費
②借主の死亡後の毎月の賃料や管理費
なお、①の債務は、複数の相続人がいる場合には各自の法定相続分に応じて分割して負担することになります。②の債務は、遺産分割協議により特定の相続人が賃貸借契約を相続することが決定されるまでは各自の法定相続分に応じて承継しますが、①と違い相続人全員が連帯して各自が全額を支払う義務を負います(大家さんは共同相続人の1人に対して賃料の全額を請求できます)。
住宅の賃料位であれば問題となるようなことは少ないですが、事業用不動産だと賃料も高額になる場合があります。早急に管理不動産業者や貸主と相談する必要があります。
賃貸借契約を解約する場合
相続人が誰も利用しないので賃貸借契約を解約するときには、原状回復義務による費用負担が発生する場合があります。敷金を預けていれば返還請求はできますので、実質的にどのくらいの負担になるかは不動産管理会社等に確認が必要です。なお、各相続人は、原状回復義務や敷金返還請求権に関して法定相続分に応じた負担と権利があります。
使用貸借の場合の相続
賃貸契約と似たような契約に、土地や建物を無償で貸し借りする契約の使用貸借があります。使用貸借は賃貸借契約と違い、借主が死亡した場合は原則的に使用貸借契約は終了し、借主の地位は相続しません。相続人は貸主に対し土地や建物を元の状態に戻して返却する必要があります。原状回復費用が多額になる場合もありますので注意が必要です。契約書が無い場合でも、賃料の有無で賃貸借か使用貸借かが判断されます。
なお、使用貸借契約の貸主が死亡しても使用貸借契約は終了しませんので貸主の地位が相続人に承継されます。
親の土地に子供が家を建てて住んでおり、使用料は無償または固定資産税程度の金銭を支払っているが契約書は無いという方をたまに見かけます。前述の通り使用貸借の場合は借主の死亡後は更地にして返す必要があり、建物所有者である子供が先に死亡すると建物を解体して遺族は出て行かなければなりません(条件により借主の地位を承継した裁判例はあります)。親族間でそんなことはないでしょうと思われるかもしれませんが、嫁姑問題、子供(孫)の有無など条件が揃うと立ち退きを求められる場合があります。裁判事例も複数あり、そのような争いは珍しくないようです。
建設会社は建築確認が取得出来ればその後は関与しません。税理士は贈与税と相続税に問題がないように整えるだけです。無用なトラブルにならないように、借主の死亡時に使用貸借契約が終了しない旨の条文を入れた使用貸借契約書を必ず作成してください。